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静謐を綴じる(主将と監督)

ああ、この人は、女性、なのだ、というそんな当たり前のことを思い出した。
思い出す、ということは、忘れていたということだ。
入部前、あんなに固執していたはずのことなのに。
共に汗を流し、共に笑いあうことが日常になるのに反比例して、失念していったのだ。
それはもう、潔いほどの、忘却だった。

そんな彼女が泣いている。
夕焼けに赤く染まるグランドを見つめながら。
声を上げることもなければ、肩を震わせることもない。
ただひそやかに、美しい涙が、その大きな双眸から流れ続けているのだ。

大丈夫すか、と声をかけることは許されない気がした。
その肩を抱かれることを、全身で拒んでいる気がした。
その涙は、今まで見たどんな涙よりも綺麗で、重たいものである気がした。
自分の無知に無力さに思わず歯噛みして、拳をぎゅっと握り締める。
俺がこの人のためにできることは、何ひとつないのだ。
まだ16歳だ。もう16歳だ。
この人を支えたい。この人の力になりたい。
想いばかりが空回って、俺は未だに、この人が背負うものすら知らない。
これが恋と呼べるのかどうかはわからない。
ただ、少しでも長く隣で笑っていたい。笑っていてほしい。
今はまだ静かに彼女に声をかけることすら叶わないけれど。
それでも、いつか。

開いた掌には10の爪あと。
彼女の痛みに近づけるはずもないのに。

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