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指切り(平助と新八)

誰かに愛して、ほしいんだろう?
誰かに赦して、ほしいんだろう?
なあ、そうだろう?

魁隊長の二つ名は、優しさの裏返しだ。
平助は争いごとなんて好まない。
それでもいつも先陣切って戦場に飛び出すのは、他の隊士の心の傷と、危険を少しでも減らすためだ。
彼が敵を斬れば斬るだけ、後発の者が対峙すべき相手は減る。
誰かのたいせつな人のいのちを奪う。誰かのたいせつな人のいのちが奪われる。
その痛みを、平助はきっと、誰より知っている。

一度、
「どうしてそんな戦い方すんの」
と聞いた事がある。
平助は、
「俺は弱いから、俺の部下が傷つくの見たくないから」
と、やけに淡々と答えた。
そのとき平助は俺の目を見ようとはしなかった。
そのあと、いつもより乱暴に、抱きしめられた。口付けは、いつものように丁寧だった。


その日も平助は人を斬ってきた。
「ごめんね」
「それ、何に謝ってんの」
「…何にだろうね」
赦されるはず、ないのにね。

こうやってあきらめた風に笑う平助は嫌いだ。
どこか、遠くに行ってしまいそうな気がする。

「お前、最近ちゃんと食ってないだろ。もともと細いんだしちゃんと食べなヨ」
「それ、新八っつぁんにだけは言われたくないなぁ」

食べていない、どころじゃない。
人を斬ったあとの夕餉を、いつも苦しげに嘔吐しているのを知っている。
もともと細く白い腕がいよいよ病的になっているのも、その左腕に鮮やかな朱色のためらい傷が、わずかに、でも確実に増えているのも気づいている。
その腕の中に、平助はなんの躊躇もなく俺を閉じ込める。
体温の低い平助の身体はそれでもたしかにいきている。
俺には何もできなくて、何も言えなくて、でも平助を失いたくなくてどうすればいいのかわからなくて、薄い背中を抱きしめ返すのだ。
泣きたいのに(それはきっと平助もだろう)、涙は喉元につっかているだけだ。

「つよく、ならなきゃいけないんだけどね」

お前は充分つよいよ。がんばってるよ。
もういいよ、って、言ってやりたい。言ってやれない。
だってここはそういう場所だから。
だってお前は俺のたいせつな人だから。

「約束、しようヨ。他の誰がお前を咎めても、俺はお前を愛するよ、赦してみせるよ」

だからどこにもいかないで。

「……ありがとう」

絡めた小指から、かすかに血のにおいが薫った、ような気がした。

魁隊長の二つ名は臆病さの裏返しだ。
俺はそれを平助の美徳だとおもっているし、愛すべき性質だとおもっている。
それでもときどき、つらくなってしまう。
全速力で駆け抜けるうつくしいいのち。
いつかきっと俺はとりのこされるのだろう。
これはもはや予感ではなく確信だ。
だけど、俺の我儘でしかないけれど、乱暴にでもいいから抱きしめてほしいのだ。丁寧に口付けてほしいのだ。

この臆病で優しい獣のいのちの灯火を、あいしているんだ。

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