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「和さん、2番管、抜いたほうが良いと思います」
「たーじーまー!走るなっつってんだろ!そこは2ndに主旋うつってるだろーが!」
「花井、そこの和音違わないか?」
「西広、もうちょっとホルンにしか出せない音出して、広く包み込むような」
「泉、そこの16分音符、笑わせて。今のまんまじゃつまんねーよ」
西広の音感は絶対だ、ホルンなんてピッチの合いにくい楽器を意地でも合わせてくる。初心者っていう引け目を、感じているのは伝わってくる。それを微塵も見せたりしないという硬い決意も。途切れない集中力の端々から。
泉の脳内メトロノームはいつだって正確無比に、刻み続ける。いつだったか、「あんな絶対的なやつの隣で吹いてて、嫌になることねぇ?」と尋ねた花井に「俺は俺にできることをできるようにやるだけだから」と、さらりと言ってのけた。その双眸に宿っていたのはジレンマなんかじゃない、確かな自負。
和さんの底辺を支える力は本当に頼りになる。余りに確かな指摘、その度吹奏楽部一個人主義者の多い低音パートのパートリーダーという肩書きを思い出し、いつまでもさんづけがやめられない。同級生だというのに!
花井は吹っ切れた。よく笑うし、怒るし、何より「音を楽しむ」ことを知った演奏をする。それはまるで寒い日の星。触れればキンと言いそうな夜のベールに散りばめられたそれに、儚いなんて言葉はもう似合わない。ひたすらに明るく、あたたかく。
そして田島は相変わらず天才だ。正直、伝えたいニュアンスの3割も伝えられていないのではないだろうか。でも、それでいいのだ、彼は。この絶妙のバランスの頂点に立ち、笑う、にんまりと。
「本当に、来ちまったよ普門館…!」
経験は人を育てる。
人は心を育てる。
心は粋から音楽を求める。
そこに音楽を与えてやらないなんて、さ。
口笛ひとつ、歌声ひとつ。
何も要らない、要るのは身体だけ。
広がる音の渦、何かを変えられると信じるに値する。
そして俺らは楽器を構え続けるのだ、その何かのため。
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