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がじゅの左手の薬指には、ほんとうにめだたないけれど、ひそやかな指輪の痕がある。
もともと色素のうすい彼だから、よくよく見なければ気付かない。
でも俺はがじゅのあたまのてっぺんから爪先まで愛していて、いつも長い時間をかけて、じっくりじっくり彼の身体の細部まで眺めているものだから、気付いてしまった。
執拗にそこをなめていると、がじゅはくすり、と笑った。
「妬いてくれてるの?」
嫉妬!
そうか、これが嫉妬というものなのか。
今まで俺は、少し頑張ればなんでも人並みにはやれて、何かを、誰かを羨望のまなざしで見たことなんてなかった。
でも今俺が感じているのは、恐らくきっと、嫉妬、だ。
腹の底がぐらぐらと煮えるように熱い。喉から手が出そうなくらい羨ましく、妬ましい。
俺の知らない奴に愛されていた俺の知らないがじゅがいる。
俺の知らないがじゅが愛していた俺の知らない奴がいる。
俺がどう足掻いたところで手に入れられない、がじゅの過去。
「認めたくないけど、そうみたい」
「…ありがとう」
ふわりと微笑う。
ああ、なんでこんなに綺麗なんだろう。
俺の中の醜く汚らわしい感情とは、いっそ潔いくらいに対照的だ。
「これはね、前に付き合っていた人の結婚指輪を、戯れに黙って借りて1人で海に行った日にできちゃった日焼けの痕。
俺たちは結婚してからも関係を続けていたんだよ。
お互いにとても、弱かったから」
軽蔑した?
そう不安げに尋ねられて、首を縦に触れるはずなんかない。
この人はどれだけの悲しい想いを、この細っこい身体に閉じ込めてきたのだろう。
どれだけの涙を独りで流し、あるいは堪えてきたのだろう。
マグマのような、怒りにも似た感情はいつのまにか消え失せて、かわりに募る溢れんばかりの愛しさ。
「今度、2人で海に行こう」
そんな痕、消してしまおう。
過去は、変えられないし、心の疵は、消せないけれど。
それでも未来は、俺たちのものだから。
「アキに出会えて、俺今ほんとうに幸せなんだよ?嫉妬しちゃうくらいに愛してもらえて、泣きたくなるくらいに愛してもらえて。だから、ありがとう」
真っ赤な目をしたがじゅを、腕の中にすっぽりと包む。
いのちのリズムと、未来の足音が確かに聞こえた。
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サボテン宅のアキくんとがじゅちゃんを書かせていただきました!
原作と続けてみたよ
前の人と別れて、付き合いはじめてすぐくらい
原作の世界観をぜひお楽しみください
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