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ゲホゲホと咳をする様は明らかに苦しそうなのに、息をするだけでも命を削っているようなのに、彼は笑うのをやめない。
腹が立つ。
頬を朱に染めて、切れ長の双眸を潤ませて、それでもその乾ききった唇からは大丈夫、という言葉が発せられる。
本当に、腹が立つ。
暗い部屋に、上がる一方の熱に、隠そうとしたこいつに、なによりぶっ倒れるまで気付いてやれなかった自分自身に。
もし、立場が逆だったならば、こいつのことだから、きっと、。
いつものように部活に出ようと誘えば、いつものように軽口を叩きながらついてきていて、その足元が何となく覚束なくて、途中から声が聞こえなくなって、不安を感じて振り向いたら、突然。
膝から崩れ落ちようとする平助が、そこに、いた。
思わず掴んだ腕は驚くほど冷たくて細くて、触れた額は泣きたいくらいに、熱くて。
もう放課後だよ、こいつ1日この状態だったのかよ、信じらんねぇ、本当に人間か。
脳裏をぐるりぐるりと回る言葉たちは、全身の震えを止めるのには何の役にも、立たなかった。
取りあえず同じ剣道部に所属する左之に平助を連れて早退する旨を伝える。
きっと単細胞なあいつのことだ、部活が済んだら飛んでくるだろ。
平助をマンションまで引きずって、(俺の家なら誰かいるだろうけれど少し遠い、から)看てやらなくちゃ。
俺たち3人は常に気付けば共に在る。
そうあれる様、努力する。
こいつ、俺がいなかったらどうなってたんだろう。
きっとこの馬鹿のことだ、誰にも気付かれず、気付かせず、部活に出ようとするんだろうな、そんで、途中でぶっ倒れる。
考えるとぞっとした。
平助はうるさいけれど、静かだ。
存在感があるけれど、ない。
もし、だれも、気付かなかったら?
編入当初、あまり部活に出ないから、と彼を迎えにいくことに決めておいて、本当に良かった。
というかこいつ、あの頃はそもそもあまり学校に来てなかった。
仲良くなったきっかけは確か左之だ、中学の時の同級生が越してくるんだ、とあまり嬉しそうに言ったものだから。
そうでなければクラスの違うやつと親しくなんかならない、俺は其処まで良いやつじゃない。
うちの高校は全国から学業・スポーツ推薦者が集まるいわゆる名門で、俺も左之も剣道の推薦で入学して、1年の時同じクラスで意気投合した。
そんなわけで、編入生自体、珍しくて興味があったし、左之の友達に嫌なやついるわけない、と思って、平助と親しくなっていったんだ。
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