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ぎこちない抱擁、-2 (トリオ現代パラレル)

平助の家は嫌いだ。
マンションの1室なのだけれど、広くて、どこもかしこも整頓されていて、音がない。
本当に生活が営まれているのだろうか、と違和感を感じてしまう。
朦朧とした意識の中でもエレベーターに乗り鍵を開け、自室に行く平助には少し驚いた。
学校からここまででも、ほとんど俺に凭れ掛ってこなかった。
やんわりと申し出を断らなかったことと、無口だったこと以外は、いつもの平助だった。
ああ、それって全然いつもの平助じゃないな。
外はどんよりと曇っている、雨になりそうだ、傘借りて帰らなきゃな、左之に薬と一緒に買ってきて貰うか。
平助の家族に逢ったことは、ない。
以前それとなく聞いてみたことがあるけれど、一人っ子で共働き、と軽く流されてしまったから、知らない。
俺は平助のことを何も知らない。

大したことないから、と苦笑いしながら嫌がられたけれど、無理やり体温計をわきの下につっこんだ。
っていうか枕元に体温計が常備してある高校生ってどうなんだろ、血圧計まであるし。
ちょっと不思議。
ピピピ、と無機質に響く電子音、39.2℃の表示。
どこが大したことないんだよ、はたこうとしたけれどその表情は思いの外、苦しそうで、出来なかった。
早く左之来ないかな。
台所、借りるよ、氷枕作ってくるから、あと水も持ってくる、咽渇いてるだろ、と呼びかけたけれど、返事はなくて。
そりゃあれだけ熱があれば当たり前か。
台所で俺を待っていたのは、空っぽの冷蔵庫。
卵とご飯くらいあるだろう、と思っていたのに、目の前が真っ暗になった。
それでも氷だけは、大量にあって。
やっぱりこの家、何かおかしい。

ピンポン、ピンポン、とけたたましく鳴り響くチャイムに、生まれて初めて感謝した。

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