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ぎこちない抱擁、-4 (トリオ現代パラレル)

喉が焼けつくように痛い。
関節が音を立てる。
震えが止まらない、歯の根が合わない。
結構本格的にやばい、かも知れない。

しんどい。

薬を取りにいこうと立ち上がった、そのとき。

世界が反転した。





他人の温もりなんて、知らなかった
空が青いということも、知らなかった
俺の世界にはいつでも灰色のフィルターがかかっていて、全てから隔離されていた
草木から、泥濘から、大粒の雨から
悲しみから、淋しさから、痛みから
喜びから、幸せから、生きる、こと、から


あのひとが見ているのはいつだって俺じゃない。
俺の向こう側にある、父さんの幻影ばかりだ。
知ってんだ、けれど同時に理解もしてるから。
あのひとが如何に可哀想か、っていう、ことも。







「…平助!へいすけっ!?」

扉を開けた、そこにいたのは。
放課後のときよりずっと真っ赤になって床に沈みこんでいる平助だった。
思わず頬を叩くと、潤んだ眼で、新八っつぁん、ごめん立てない、って見上げてきて。

ああ、今足元から感じるこれは紛れもない、安心、だ。

見上げられるなんていつもと逆だな、なんて暢気なことを思う余裕も出てきて、ベッドに座らせて取り合えず水を飲ませようとした、んだけれど。

「平助、コップ、持てる?」

と渡したそれは平助の元に届く前に床へと、飛び散った。
ケフ、ケフッと、噎せて、嘔吐しそうになった平助の背中を擦るために手放したから。







ごめん、と言って、お前はまた、笑った。

パリン、というガラスの割れる音がして、用意していた薬を放り出して平助の部屋に行くと饐えた臭いが、篭りかけていた。
別にお前は悪くねえよ、とわざとぶっきらぼうに言って窓を開ける。
こんな平助は、嫌いだ。
雑巾取りに行ってくるから、ぱっつぁん、この馬鹿もうちょっと看てやっててな。
こくりと肯いた新八っつぁんを残して、部屋から逃げ出した。
逃げるのは、あんな平助を見ることより、余程嫌いだけれど。
そうすることしか出来なかった。
あいつを怒鳴りつけることも、抱き込んでやることも。
俺には、出来ない。

少し、泣いた。







あーあ、と、手に収まりきらなかった吐瀉物を見ながら、溜息をつく。
もっとも、今日は殆ど何も口に出来ていないから大半が胃液だったけれど。
吐くという背徳的な行為に対する罪悪感は、もう、ない。
それよりも、優しい彼らはこれの片づけをするだろう、ということが、そうさせてしまうことが、堪らなく痛かった。
生理的に流れ出た涙を拭って、振り向いてさっき左之に言ったのと同じ言葉を、今度は新八っつぁんに。
ごめん、そして、ありがとう、と。
俺はちゃんと、笑えているだろうか?

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